納豆とナット。

 

 豆、と言われて、思い出すことがある。「なぜ、ナット、だったのかーー」

 

 の祖父母は食堂を営んでいた。食堂、というか昔ながらの定食屋さん。そこそこ広かったけど、一面カウンター席。禁煙席もへったくれもないから、誰も家族に喫煙者はいないのになんとなく漂う煙草のにおい。端の棚に積まれたマンガ雑誌と上の方にあるテレビ。そして壁にズラッと貼られている手書きのメニューの札。食堂を始める前、祖父が魚屋さんに勤めていたこともあり、魚系の定食がメニューにも多かった記憶がある。その中で、子供ながらにこれ、なんだろう、と思っていたものがあった。それが「ナット」だった。

 くと、それは納豆だ、ということは分かった。自分はいまだにいろいろと適当人間なのだが、子どものころはどうやらさらに適当だったようで、昔の人(というか祖父母世代)は納豆のことをそんな風に書くもんなのかなあ、と勝手に納得していた。

 、しかし、今になっていろいろ気になる。なぜ、「ナット」だったのか。漢字が面倒だったにしても、なぜ「ナットウ」までにしなかったのか。というか、そもそも納豆ってメニューの1つだったのか。注文されてたところを見た記憶はないのだが、どういう存在としてナットはいたのか。とっても謎。今考えると、いろいろ謎。

 なみに、その「ナット」の証拠はもう残っていない。祖父母の食堂は数年前に完全に閉めたのだが、そのとき、「もうやりきったし、いいっしょ」みたいな感じで外装も内装もまったく写真なども残さなかったらしい。今でも聞けば何かしら教えてくれるかもしれないが、なんとなく、「ナット」の真実を知るタイミングはその時に失っていた気がする。

 2年前に食堂のあった部分もリフォームされた。祖父は1年半ほど前に他界した。祖母はめちゃくちゃ元気でやっぱり人に食べさせることが大好きで、遊びに行くと想像を超える量が出てくる。中華鍋だったり天ぷら鍋はお店のころのものを使っているので、普通のコンロのサイズをまったく合っていない様子にいまだにビビるのだが、それ以外はもう食堂だったことはわからない、普通の二階建て住宅だ。もちろん、「ナット」の札の面影もない。でも、それでいいのかもしれない。「ナット」の謎はいろいろ気になるけれど、そのままにしておこう。定食の味噌汁にいつも卵を入れてくれ、という不思議な常連さんがいた話や、祖父が生前、ボケた疑惑で病院にいったとき、「野菜の名前を10個言って」というのに対して、いきなりさらさら答えだした挙句、三つ葉やニンニクなんてのまで出てきた、という話、亡くなる1週間前にも元気にお刺身をさばいてくれた後ろ姿、という思い出とともに、謎に「ナット」なんて札があったということも覚えておきたいな、とふと思った。

 

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今週のお題「納豆」として書かせていただきました。ちなみに納豆はあんまり混ぜない派です。

 

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