”背番号10 ABE”

 いつもその場所にいる選手――。私にとって阿部慎之助という人物は今も昔も変わらずそういう存在だ。

 ぶっちゃけ、阿部慎之助という選手については、そこまでの強い思い入れのある選手、というわけではない。だけど考えてみれば、私が見てきた巨人、いや、プロ野球界には必ず阿部慎之助という存在があった。

 特に野球というものには興味はないが、兄が少年野球をやっているし、家族もみんな好きだから、という理由でテレビ中継をよくわからないけどなんとなく眺めていた幼少期。松本哲也の、ダイビングキャッチをはじめとする小柄な身体から飛び出すファインプレーを見て、プロ野球選手って、かっこいい、と思い始めた10歳前後のころ。学校生活もそこまで、という感じだし、楽しみといえば音楽とプロ野球を毎日チェックすることくらいしかなかった割と黒歴史になりつつある中高時代。そして、大学の講義なり、バイトなり、と少しだけ野球を見る時間が減っている気がする現在。シーズン中はいつも、テレビ中継を見れば、プロ野球速報アプリを見れば、Twitterを見れば、阿部慎之助はいた。
 それもそのはず、阿部は2000年ドラフト1位で巨人に入団。ちなみに私は最後の1000年代・1999年生まれ。ということは、本当に阿部慎之助のいない巨人は見ていないのだ。

 

 今季、阿部が捕手に復帰するということをシーズン前に知ったとき、ああ、そろそろ引退も近いのか、とふっと思っていた。でも、それ以上は特に何も考えなかったし、そこまで何も思わなかった。だけど、先日引退のニュースが出たとき、変な言い方だが、心からさみしい、と思った。だって、今までもはや当たり前だった“背番号10 ABE”の姿を見れなくなるのだから。

 来季には“背番号10 ABE”の背中は当たり前の光景ではなくなっている。でも、引退セレモニーは終わったが、ポストシーズンが終わるまで、まだ阿部慎之助は現役選手だ。だから、その間、今までと変わらず、でもしっかりとその阿部慎之助が選手としてそこにいる、当たり前の光景を見つめたい。それが少しでも長い時間であればいいと思う。

 

 そして、昔と変わらない、テレビの前になるとは思うけど、最後にちゃんと阿部慎之助選手、お疲れ様でした、と心から思いたい。もちろん、最高の笑顔で。